Language Expressiveness, Customs and Culture.

「言語の表現力と慣習や文化」


各国々の言語
日本語という言語には、表現が難しいあるいはできない、いくつかの言葉があります。標準語や各地方には方言など、各地に伝わる表現方法や言葉づかいもあります。

今流行の表現からは「おもてなし」を頭に浮かべる方も多いかと思いますが、日本人がこよなく愛用する表現であり最も一般的で代表的な言葉と言えば、「よろしくお願いします」ではないでしょうか。

「よろしく」と抽象的に表現することで、依頼する方も依頼された方のどちらにもあたりさわりがなく、どのような状況下でも使用できる、とても便利でしかも丁寧な表現ではないかと思います。

しかし、このような日本語の気持ちや表現は、英語などの他国語に翻訳することが難しいと言われています。どのようなことが隠され、そしてどのようなことが考えられるのでしょうか。
抽象的で曖昧な表現
ラテン文字(ローマ字)を使用する言語は、全体的に1文字あたりの情報量も少なく、日本語の1文字あたりの情報量は、中国語に次いで2番目に多い言語であることがわかっています。ある研究者は、日本語140文字の文章を英語に翻訳したところ、約2倍近くの平均260文字になったと発表しました。これを言い換えれば、英語140文字の表現能力は、日本語の約75文字分の情報量しかないということです。

「よろしく」と表現する言葉には多種多様な表現が隠されており、伝える情報量も多いと考えられます。自らの感情や気持ちを伝えるとともに、相手に対する配慮や気遣いを同時に伝えようとします。

他国語となる英語に例えるならば、初対面の方との最初のあいさつの場面では Nice to meet you.となりますし、具体的な用件をお願いする場面ならば Thank you.で良いと思います。また、その用件が取引先に対する仕事の依頼ならば、I am waiting for good news.が適切な表現ではないかと思います。

「よろしくお願いします」をあえて直訳するならば、I beg your kindness.(私はあなたの親切を望みます)が最も近い表現ではないかと思います。しかし、丁寧で謙遜しすぎる表現となるため、ネイティブな英語圏では使うことが少ないようです。

英語圏の方にとっては、具体的な関係性を確立した間柄でもなく、具体的に何かを依頼したりされたりする関係ではないのに、「これからも、何かとあなたの親切を望んでいます」と伝わります。そして「よろしく」と相手に判断を委ねることで、その結果が本人の意に添わないことがあることを理解したうえで、あえてお願いする表現となり、とても厚かましいお願いと解釈されてしまうのです。
慣習や文化を理解する
新入社員が「よろしくお願いします」と伝えることが、日本では一般的かつ日常的な風景であったとしても、具体的な依頼ではない場面において、そのように伝える文化は英語圏には存在していないのだと思います。

日本には気持ちや感情を直接的に伝えることよりも、奥ゆかしく謙遜しながら伝えたり表現することを美化する文化があります。気持ちや感情を伝えるために、相手に対する言葉づかいや言葉を使い分けて、ニュアンスやトーンを変えることも多いと思います。しかし、そのような点には気を遣いながら、相手には何をして欲しいのか、具体的に何を伝えたいのかを、気にする方は少ないと感じています。

具体的に依頼した仕事について評価したり感謝の意を表すのなら、その旨を述べれば良いと思います。英語で表現するならば thank you, good job, be careful.など、何に対する伝達であるかを具体的に表現します。その場の雰囲気を変えるため、あるいは無視した礼儀を知らないと思われることを避けるために、「お疲れさま」と表現する文化はそもそもありません。

先に職場から帰宅する際に、黙々と一生懸命に仕事をしている方たちに、話しかけたり声をかけてあいさつすることに、抵抗を感じることがあります。労をねぎらうなどの配慮と考えていますが、仕事に集中されている方にとっての「お先に失礼します」や「お疲れさま」は、時には邪魔になったりノイズに感じる方もいるのではと考えているからです。

これらの考え方などは、育まれた環境や慣習あるいは文化に依存します。自らの慣習や文化あるいは性格を知ることは、とても重要と考えています。

各国々の人たちの文化を知ることで、なぜそのように考えているのか、またはその考えに至ったのかを理解することができます。それらを知らなければ、言葉づかいを変えたり言語や手段そのものを変えてみたところで、思うようには伝わらないのではないでしょうか。
[筆者:大谷智史](2014年2月3日)

§今回は言語の表現力と慣習や文化をテーマに、言語を扱う上での育まれた環境や慣習あるいは文化を知ることの大切さを考えてみました。(次回は、2014年3月3日掲載予定)